大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和45年(ラ)133号 決定

抗告人 大関満江

右代理人弁護士 四位直毅

同 渡辺良夫

同 南元昭雄

相手方 東京信用金庫

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一、本件抗告の趣旨および抗告の理由は別紙記載のとおりである。

二、しかし、当裁判所も、原決定と同様に、本件仮処分申請を失当として却下すべきものと判断する。その理由は、左記のとおり補充するほか、原決定理由記載のとおりであるから、引用する。

三、抵当権は抵当不動産の担保価値を把握してその価額から優先弁済を受けることを目的とする権利であり、抵当物件が建物である場合に建物所有者(抵当権設定者)が建物敷地について所有権又は賃借権などの利用権を有することは抵当権の効力発生要件ではなく、抵当権者は建物所有者が敷地の不法占有者であると否とを問題としないで抵当権の実行をすることができる。ただ抵当建物に敷地の利用権が伴わない場合にはそうでない場合に比し当該建物の価格が低く従って優先弁済を受ける額もすくないという不利益を受けることがあるに過ぎない。

本件の場合相手方のなす抵当権実行により抗告人が本件土地所有権にもとづき本件建物所有者に対し有する建物収去土地明渡請求権の行使が事実上困難となる結果を生ずるため相手方の抵当権実行を阻止することにより受ける事実上の利益を法律上保護に値する利益、権利として相手方に対しその申立てた競売手続の停止を求め得るとすることは相手方の抵当権の存在、効力を全く否認すると等しい結果となるから、かかる不当の結果を生ずるような解釈はこれを認めることはできない。殊に本件の場合たまたま敷地の借地人の賃料不払により敷地利用権が消滅した場合であって、その不利益を建物抵当権者にのみ負担せしめるのは衡平の原則にも反する。これを要するに抗告人が抵当建物の所有者占有者に対し有する建物収去退去土地明渡請求権は抵当権者たる相手方に対し抵当権の実行禁止を求める被保全権利と解することはできない。しよせん、抗告人の主張は採用することはできない。

四、そうすると、原決定は相当であり、本件抗告は理由がないので、棄却することとし、抗告費用を抗告人に負担させて、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 久利馨 裁判官 三和田大士 栗山忍)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例